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家具屋の思い出話

「学生の頃」

僕が大学に入って2年後に松尾君が入学してきた。彼はとても華奢な体型ながら父に負担をかけまいと毎日が一生懸命でバイトもしていた。僕らのようにのんびり学生生活を謳歌している風のろくでなしとは全く違っていた。彼は一生懸命に生きる力がそうさせるのか時給がすこぶる良いバイトを次から次と探してきた。そしてそのバイト終わりには必ずカップ麺を段ボール箱ごと買ってきて「食べるものがあると安心するんですよ。」と目を細めていたことを覚えている。

彼が夏休み前に見つけてきた不思議なアルバイトがあった。沼を埋めるのに液体を流して腐らないようにする為の機械を設置した仮設の小屋の中で丸1日その機械が動いているのを見ているアルバイトだった。機械が止まると旅館にいるその会社の人を呼ぶ。ただそれだけの仕事だったらしい。夏のそのバイトの間、「一度仕事に就くと席を離れることもできなかったから三四郎も宮本武蔵も全巻読みましたよ。」と言っていた。それなのにとても良いバイト代だったらしく聞くところによると僕がやっていた電気屋の店頭のバイト代とは10倍ぐらいの差があった。「来年は僕にもそのバイト紹介してよ。」「いいですよ。」と言う話だったが、そんないいバイトを手放すはずもないのはわかっていた。

さらに一年後に入ってきた後輩が天神のカフェでバイトし始めてこっそり僕に言ってきた。「3階建てのそのカフェの3階の厨房に僕は居るので3階に来たらコーヒー一杯の伝票で何食べてもいいですよ。」とても悪いことだとはわかっていたが、松尾君の空腹を満たし、彼を喜ばせる為だと思い決行した。僕らは3階に上がり、背中合わせの別の席に座りそれぞれ好きなものを次々と注文した。当然最後に僕はコーヒーを注文する。松尾君も思いっきり注文している事が背中越しに聞こえていた。あらかじめ松尾君には小銭を渡して別々に清算するように示し合わせていた。僕は最後にカフェの彼から伝票を受け取りそ知らぬ顔で1階のレジに伝票を出した。手渡す伝票が小刻みに震えていて、己の肝の小ささがよくわかった。まあやったことのない者の罪悪感がそうさせたのだとも思う。「コーヒーですね。380円です。」お金を払い店の外に出た。助かった。少し先に歩いた。後から出てきた松尾くんに「おいしかったか?腹いっぱいになったか?」と言おうと振り向いた瞬間、僕は目を見開いた。彼の口元にしっかりカレーがついていたのだ。コーヒーとだけ書かれた伝票を出した松尾の口元に。「松尾、ばれてたかもな。やっぱ悪い事はしちゃいけないよな。」二人泣き笑いでバスに乗り下宿に帰った。

その夜カフェでバイトしているその後輩に報告すると彼は腹から笑った。「大丈夫ですよ。俺が何とかしてきますよ。」それから先の事はすっかり忘れてしまったが、たぶん僕なりに始末を付けたんだと思う。それにもう一つ不思議なことだがそれから先の松尾君の事を僕は全く思い出せない。口元のカレーは思い出すのに。

Cozy Flat 仲 洋史
名称Cozy Flat
住所佐賀県佐賀市
TEL0952-xx-xxxx